近年、ビジネスパーソンが取得したい資格として紹介される機会が増え、世間からの知名度が高まっている資格の一つに中小企業診断士が挙げられるのではないでしょうか。
日本経済新聞社の2016年調査によると、ビジネスパーソンを対象とした新たに取得したい資格ランキングで第1位、大手資格予備校TACが発表した「2020年人気資格ランキング」では、簿記検定、宅地建物取引士に次いで第3位にランクインしており、確かに人気の高さが伺えます。
その一方で、「中小企業診断士って名前は聞いたことあるけど、具体的に何をする人なの?」という質問を受けることも多く、中小企業診断士という名称の知名度は高まりましたが、その認知度は決して高くないこともまた事実です。
この記事は試験の難易度について考察することがメインテーマですが、資格としての人気が高まる一方で職業的な面での認知度が高まらない理由を分析し、そこから真の難易度を紐解いていこうと思いますので、気になる方は是非最後までお付き合い下さい。
目次
中小企業診断士の認知度が低い事情
いきなりですが、70.1%という数字についてどんな印象を持ちますか?
「高いか低いか」、「多いか少ないか」でお考えください。
ほとんどの方は「高い」、「多い」を選択されるのではないでしょうか。
この数字が何かといいますと、2017年に東京都中小企業診断協会が実施した「1年目中小企業診断士の意識・実態調査2017」における企業内診断士の割合なのです。
企業内診断士というのは、簡単にいえばサラリーマンや公務員として企業等に勤務しながら中小企業診断士の資格を取得し、協会に登録した方を指します。
言いかえると、生業として中小企業診断士の業務を行っていない方が7割にものぼるということです。(ちなみに筆者も企業内診断士です。)
また、この資格には5年ごとの更新制度が存在し、更新の要件として企業のコンサルティング実務に一定期間従事することが義務付けられています。
筆者が知る独立された診断士先生曰く、「10人の合格者の内、2人は独立して8人は企業内診断士。企業内診断士8人の内、5年後に更新するのは半分の4人で、あとの4人は資格を失効する」とのことです。
職業的認知度が高まらない理由はお察し頂けましたね。
合格しても中小企業診断士として独立される方が少なく、尚且つ更新制度が存在するため資格を失効される方も多いのです。
ここまでお読みいただくと、この資格に対してネガティブな印象を持たれる方も多いと思いますが、そうではありません。
筆者の知る独立された診断士先生は、プロの経営コンサルタントとして活躍されている方が多いですし、経済面でも成功されている割合が高い業種に感じます。
では、なぜ独立する診断士がこうも少ないのか。
あくまでも筆者の主観ですが、試験合格者は安定した大企業に勤務し、かつそれなりのポストについている方が多いという印象を持っています。
「わざわざリスクを冒してまで独立しなくていいや」という方が多いといいますか。
そんな理由で独立する診断士の数は増えず、士業の中ではマイノリティーのままで、その結果職業面での認知度がなかなか高まらないと筆者は考えています。
認知度の低さが難易度の高さにつながる!?中小企業診断士試験の不思議
試験難易度の考察に無関係な話と感じるかもしれませんが、認知度に関する状況分析には難易度を計る上で重要なポイントが含まれています。
それは、試験合格者は大企業に勤務する方が多いという点です。
つまり、高学歴な方が多いです。
後で触れますが、中小企業診断士試験における最大の山場、2次記述試験は相対評価に基づく採点といわれており、その合格率は毎年20%です。
60点取れたら合格といった絶対評価によるものではなく、優秀なライバル達との間で上位20%に入らないといけないのです。
受験のライバル達には猛者が揃っているという認識を強く持ち、そんなライバル達と少ない椅子を取り合う試験であることを肝に銘じて勉強に取り組む姿勢が不可欠です。
中小企業診断士試験合格率はたったの4%?最大の山場、2次筆記試験とは?
では、そんなライバル達とどのような試験科目・内容を競うのか、試験の概要について確認していきます。
試験は1次試験と2次試験から構成され、2次試験はさらに筆記試験と口述試験から構成されます。
1次試験はマークシートに記載する多肢択一形式となっており、試験科目は以下の7科目となっています。
合格基準は総点数の60%以上、かつ1科目でも40%未満の科目がないこととされており、広範な科目においてまんべんなく正答することが求められます。
1次試験合格者は合格年とその翌年に2次試験を受験する権利を得ることができます。
また1次試験の特徴として科目合格制度というものがあり、60%以上の点数がとれた科目については、翌年の試験で当該科目を免除することが可能です。
この1次試験は8月初旬に丸々2日間に亘り実施されますので、試験も大変ですが、真夏の暑さ、試験会場のエアコンからくる冷え、疲労感との闘いという側面もあります。
1次試験合格者は10月中旬に実施される2次筆記試験へと進みます。
2次筆記試験は最長200文字程度の記述式問題となっており、以下の4つのテーマについて、それぞれの企業事例をベースに出題される設問に回答する形式となります。
大雑把にイメージをお伝えすると「A社の既存事業が衰退した原因を述べよ」みたいな設問です。
この2次筆記試験も各科目60%以上、かつ1科目でも40%未満の科目がないことが合格基準とされてはいますが、満点解答が公表されることはなく採点方法もブラックボックスであるため、実質的には上位20%程度が合格する試験といわれています。
ちなみに、中小企業診断士試験の最大の山場がこの2次筆記試験といわれます。
2次筆記試験合格者は12月中旬に実施される口述試験に進みます。
口述試験は10分程度の面接試験で、99%合格します。
知識を問うというよりは人物考査の側面が強く、遅刻と沈黙さえ回避すれば合格するとお考えください。
以上を踏まえた全体の合格率ですが、1次試験は正解と合格基準が明確に示された絶対基準に基づく採点形式で、合格率は毎年およそ20%、その合格者が受験する2次筆記試験はブラックボックスに包まれた競争型の試験で合格率はおよそ20%、2次口述試験は遅刻と沈黙を回避すれば合格確実で合格率99%、全て合わせると以下のような合格率になります。
中小企業診断士 合格率計算
20% × 20% × 99% ≒ 4%
4%の合格者枠に入るために必要なこと
さて、以上を簡単にまとめると高学歴なライバルとの間で合格率4%を争う試験です。
どうでしょう?決して甘い印象は持てないと思います。むしろ凹みます(笑)
自分はイケると思う方はその感覚を大切にしながら試験に挑戦することをお勧めします。
タイトルにある「中小企業診断士の難易度は簡単?それとも難しい?」ですが、これまでの情報から分析すると回答は明らかです。難しい。超難しい。
ですが、誰にでも勝機はあるのです。その証明となるのが筆者自身の実体験です。
申し遅れましたが、筆者は一流大学卒業で大企業に勤務するエリートという属性は残念ながら持ち合わせていません(苦笑)
しかし、中小企業診断士試験は独学で一発合格することができました。
そんな筆者が考える合格の秘訣は非常にシンプルです。
それは「高い集中力を維持し、正しいプロセスを実践し続けること」ができるかどうかに尽きます。
診断士試験合格者の中にはいわゆるエリートが多いことは厳然たる事実ですが、海外駐在経験や多額の予算マネジメント、ビッグプロジェクトに携わった経験が仇となり、2次筆記試験で求められる解答以上の自説を展開する方も多いのではないかと勝手に推測しています。
そんな回答には点数がつかないのです。
だって、たかが試験なんですもの。至極シンプルな通説や多数説が正解なんです。
そして、設問に対して愚直にシンプルな解答をこしらえるにあたり、いわゆるエリートの頭脳は必要ありません。
テキストに書かれている解答プロセスを自分の中に構築できれば良いのです。
また、受験生の大半が社会人です。基本的に皆さん忙しく、受験に専念する時間の確保に苦労されますし、多くの方は不合格でも生活に支障はないため、勉強しない・できない言い訳を許容しやすいともいえます。
忙しい環境に屈せず、基本に忠実な解答プロセスを構築するためにコツコツ長期間の勉強を重ねることができる人って、どれ位いるのでしょうか。
筆者の感覚では10人中3人いるかいないかといったところでしょうか。
もしあなたがその3人に位置することができたら、10人中2人が突破する2次筆記試験の難易度はグッと下がることになります。
実質、3人の争いで上位2人に入ればよいのですから。
結論:中小企業診断士試験は難しい!ただし・・・。
以上より「中小企業診断士の難易度は簡単?それとも難しい?」という問いに対する筆者の真の回答は以下の通りです。
「中小企業診断士の試験は難しい。ただし、素直に努力し続けることで、その難易度はグッと下がる」
です。当たり前すぎて、どこかで聞いた風な正論と受けとられることは重々承知です。
でも自身の経験上、コツコツと努力を続けたことで試験を乗り越えたのだと実感していますし、そこが合否をわける重大なターニングポイントになったのだと確かに思います。
単なる試験合格以上の“なにか”を得られる中小企業診断士。
秀才エリートと、素直に努力をコツコツと積み重ねられる方々はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。